第1章 それは追体験できる魔法書
「そこの愛らしいお嬢さん」
まさか自分に声をかけているとは思わず、反応が遅れてしまう。
「お嬢さん、あなたですよ」
「え、私?」
横を向けば黒いフードを被った人が立っていた。
不躾だとは思ったが、覗き込むように顔を確認すると、真っ赤な口紅を引いた女の人だった。
独特な雰囲気があり、この噴水広場に相応しくないような、なんとも言えない女性だ。
しかし、誰も気にとめている様子はない。
不思議なことに、シェリーも声をかけられなければ気にしなかっただろう。
「そう、あなたよ。ねぇ、ちょっと私のお店に来ない?」
突然のお誘いにシェリーは眉間にシワを寄せる。
どう考えたって怪しい。
断って逃げよう、と立ち上がると
「彼とは別れて正解だったと思うわ。でも、残念だったわね。少し、期待してたでしょ」
「……えっ?」
恋人と別れた事を知っているらしい。
だが、あのお店にはこんなフードを被った人はいなかった。
何故知っているのか、それに残念、期待とはどういう意味なのか…
すぐに立ち去るつもりだったシェリーだが、思わずフードの女をじっと見つめていた。
「えぇ、わかるわ。あなたも年頃の可愛らしい女の子。淑女、なんて言いながらも、男女のアレコレが気になるわよね」
「な、何をいきなり!」
ドキッと心臓が跳ねる。
女の言いたいことがわかってしまったからだ。
一度、彼との関係を拒んだとはいえ、当然興味はあった。
もし彼の部屋に招待されたら、素敵な宿を予約してくれたら、なんて期待をして、毎回下着はお気に入りを選んでいた程だ。
まぁ、そんなお誘いは無かったのだが……
しかし、何故この女がそれを知っているの?