第5章 治療師×騎士団長
「―――! シェリー、しっかりしろ!!」
どこからか声が聞こえる。
わずかに意識を取り戻したシェリーは現状を把握出来ずにいた。
轟々と音を立てて雨が降り、鞭のように身体に打ち付ける。
い、痛い…?
それに…さ、寒い
「シェリー、意識をしっかり保て!」
雨風に負けないぐらいの力強い声に、シェリーはハッとする。
シェリーは逞しく、広い背中に背負われていたのだ。
「だ、団長…?」
かすれた声は消えてしまいそうな程小さい。
それでも相手はしっかり聞き取ってくれていた。
「あぁ、ほら! 見えてきたぞ! 避難小屋だ!」
雨のせいで顔をあげることすらおっくうだった。
しかもその雨のせいで前はよく見えない。
身体は寒さでガタガタと震え、体温が奪われてゆく。
まさか『治療師×騎士団長』のストーリーがこんなに過酷だったなんて…
これでは死んでしまうかもしれない…!
「はぁ、着いたぞ! 今火を起こすからな」
避難小屋は一部屋だけの小さなものだった。
部屋の中心が四角くくり抜かれており、そこで薪をくべて火を起こせるらしい。
雨風をしのぐことはできたとはいえ、シェリーの体温は確実に奪われていった。
えっと…どうして私はこんな目に…
あぁ、そうだ。
騎士隊の遠征に治療師として同行して欲しいと頼まれて、遠征三日目に豪雨に襲われて…しかも伝説と言われる龍が現れたんだっけ。
そのせいで隊はバラバラになり。
私は氾濫した川に落ちて、助けようと手を伸ばしてくれた団長と一緒に流されてしまったんだ。
同じようなストーリーの小説を昔よんだことがある。
その時は必死に護ろうとしてくれるヒーロー素敵、なんて思っていたけど…
いざ、自分が被害にあうとなると、めちゃくちゃツラい…