第1章 それは追体験できる魔法書
大通りに戻ってきたシェリーは、今度は噴水前のベンチに腰掛け、ゆっくりと頭を整理する。
彼は浮気をしていた。
シェリーが身体を許さなかったため、別れ、浮気相手を選んだ。
ただ、それだけ。
「はぁ…」
ため息しか出てこない。
拒んだのは一度きりだ。
いきなりで心の準備が出来ていないと伝えたし、する事自体が嫌だと言ったわけでもない。
それなのに、彼は簡単に身体を許してくれる女を選んだというわけだ。
彼はあまり雰囲気を大事にする人ではなかった。
ある日のデートの帰り道、手を繋いで歩いていたはずなのに、彼はいきなり胸を揉んで……鷲掴みにしてきたのだ。
こんな場所で、と驚いた私に彼は「今日は新月だから、すぐそこの公園の草むらでシてもバレないだろ」と言い出したのだ。
この街1番の公園のため、とても広い。が、夜とはいえ出店があり、散歩やデートを楽しんでいる人はたくさんいた。
そんな中で『初めて』が外!?
驚いて泣いてしまったのはしょうがないだろう。
「はぁ…」
もう何度目かわからないため息をつく。
街ゆく人が幸せに見え、自分だけが急に不幸になった気がした。
それなのに涙は出ない。
結婚する前にあんな人だとわかって良かった、そう思う事にしよう。
無理やり自分を元気づけようとしたが、立ち上がる気力は無かった。
帰らないと、と思いながら空を見上げる。
快晴がやけに眩しく目を細めた時、不意に声をかけられる。
「そこの愛らしいお嬢さん」