第1章 それは追体験できる魔法書
あてもなくさまよっていたシェリー。
気がつけば薄暗い路地裏に迷い込んでしまっていた。
浮浪者のいそうな雰囲気にシェリーは小さく震える。
急いで大通りに戻らないとと踵を返そうとしたとき、奥から声がして思わず足を止めてしまう。
「お待たせ。ちゃんとあの子と別れてきたよ」
……こ、この声!
信じたくないが、間違いない。
この一年間、ずっと好きだった人の声だ。
声は奥の道を曲がったところから聞こえたようで、シェリーはゆっくりと近づき、更に薄暗い路地を覗き込む。
……いた!
確信があったとはいえ、本当に先程別れたばかりの男がいたことに驚いてしまう。
しかも男はナイスバディな女と抱き合い、濃厚なキスをしていたのだ。
「はぁ…早く君を抱きたい。我慢できない」
「もぅ、そんなにガッつかないで。私もずっと我慢してたんだから」
爆乳を男に押し付け、女は嬉しそうにニヤりと笑う。
「うふふっ。服の上からでもわかる素敵な身体。なんで元彼女さんは貴方のことを拒んだのかしらね」
女のセリフにシェリーは、はぁ?と怒りが込み上げる。
と同時に思い出していた。
そうだ、付き合いたてのころ、彼にいきなり胸を揉まれた事がある。痛かったし、急すぎて雰囲気も何もなくて、泣いて止めて欲しいと言ったのだが…。
まさかその事を根に持っていて別の女に浮気するだなんて…!
「あの子の事はもういい。早く…君の中に…」
「そうね。早く気持ちよくなりましょ」
二人は濃厚なキスを繰り返し、すぐ横の建物に消えていった。
またしても残されたシェリーは怒りで手が震える。
「何よ!前から浮気してたってことね!…ふん!お似合いですこと!!」
シェリーは鼻息を荒くして来た道を引き返すのだった。