第3章 伯爵家の令嬢×兄の友人
食事もお風呂もシェリーはぼんやりとしてしまった。
あの魔法書のことが頭から離れないからだ。
しかし、家族は誰一人としてシェリーを問い詰めようとはしなかった。
恋人にフラれてショックを受けている、と勘違いしているからだ。
そっとしておきましょう。
それが家族や侍女たちの総意だった――
***
「それでは、シェリー様。おやすみなさいませ」
専属の侍女が下がり、部屋には静けさが訪れる。
部屋を照らすのは月明かりのみ。
もう寝る時間だ。
しかし、シェリーは魔法書が気になって仕方なかった。
新しいページを開いたら、きっと『伯爵家の令嬢×兄の友人』のストーリーが始まるだろう。
読みたい、もとい体験したい気持ちと、それを止める気持ちがせめぎあう。
一日に2回も?
しかも相手は違う人だ。
そんなに何人も相手にするなんて、私は痴女なの?
何度も同じ考えがぐるぐると巡る。
そして出した答えは――
「そうね、私は痴女だわ」
よく考えてみれば、あの体験をしたのは私であって私ではない。
相手のハウロという男性は私の名前を呼んでいたが、実際は本当の彼女の名前を呼んでいただろう。
『現実』の私は処女のままだ。
つまり、あの魔法書が見せてくれるのは夢であって、現実ではない。
「なら、好きなだけ体験しても良いのでは?」
あっさりと意思は固まった。
引き出しから魔法書を取り出す。
それは淡く輝いていた。まるで読んで欲しいと訴えるように。
「『伯爵家の令嬢×兄の友人』か。これも定番シチュエーションね。楽しみだわ」
ベッドに横になると、ドキドキしながら指定ページをめくる。
すると魔法書から光が溢れ、またしてもシェリーは魔法書のストーリーの世界へ飲み込まれていった―――