第8章 私のストーリー
入り口の従業員に促され、テントの入り口をくぐる。
外はまだ昼間で明るいのに、中は薄暗かった。
それになんだか涼しくて、シェリーは思わず両腕をこする。
そろそろ夏が近づいてきていたため、今日のワンピースの生地は薄手のものになっていた。
だか、秋か春先になったような気温だ。
「すごいな。大量の魔法石が使われたホラーハウスか」
シルフォードは感心したように辺りを見渡す。
明かりを遮断し、よく見えないようにする効果の魔法石をちらほらと発見していた。
「それじゃぁ、進もうかシェリー」
「はい…お兄様」
進む道は1メートル先までしか見えない。
そのためゆっくりと進んでいく。
かなり入り組んでいるようで、何回も曲がったりを繰り返していた。
そして、途中の仕掛けにシェリーは何度も驚かされていた。
何かが頭上を飛んでいったり、何もないはずの壁から魔物が飛び出してくる。
魔物のうめき声だけして、実際には何も出てこないという緊張感のある恐怖も感じることとなった。
その度にシルフォードが魔法石の効果で、と説明してくれたが、恐怖でいっぱいのシェリーの頭には入ってくることはなかった。
せっかくのデートなのに…怖いことばっかり……!
まるで地獄のような時間にシェリーはガタガタとしていた。
恐怖のせいで何も無いところで転んでしまう始末だ。
「シェリー。腕に捕まって。暗いから、次転んでも間に合う自信がないからね」
「も、申し訳ありません…」
シルフォードの腕に抱きつくように腕を絡める。
役得なはずなのに、シェリーはガタガタと震えたままだった。
そして長い長い時間をかけ、そろそろ出口が近づいてきたかと思った時…
「ひいっ!」
のそっと姿を現したのは獣の骨を被った化け物だった。
「アナタ方二問ウ。愛シ合ウ者デ間違イナイカ」
低い、唸るような声にシェリーは背筋をゾッと震わせる。
問いの意味は全く分からなかった。
「ななななな、なんですか!?」
「落ち着け、シェリー」
「ででで、でも…!」
余りの怖さに今度はシルフォードの後ろに隠れる。