第8章 私のストーリー
「……お兄様。本当に行くのですか?」
揺れる馬車の中、シェリーは隣に座るシルフォードを見上げた。
チケットが無駄になるから是非使ってとミレーナに押され、渋々行くことが決定してしまったのだ。
シルフォードとのデートは嬉しい。
だが、せっかくのデートがホラーハウスというのはどうなんだろうか?
怖いと震えて抱きつく、なんて事を考えもしたが、本当に怖かったら頭が真っ白になってしまうかもしれない。
既に怖がるシェリーを他所に、シルフォードはいつも通り優しい笑顔でシェリーを見下ろす。
「大丈夫だよ、シェリー。怖くて動けなくなったら、抱きかかえて出口まで運んであげるから」
「抱きかかえて……」
ぼっと顔が赤くなる。
それは悪い提案ではないかもしれないと心の悪魔が囁いていた。
昼間っから大好きなシルフォードに抱きしめて(?)もらえるのだ。
そう思ったらホラーハウスも良いかもと思えてくるから不思議だった。
馬車を降り中央広場へ行くと、とても大きなテントが設置されていた。
以前、移動式サーカス団が五千人もの観客が入るテントを設置していたが、それと同じくらい大きい。
シェリーの家の邸が軽く四つか五つは入りそうな広さだ。
それにミレーナの言う通り大人気で、多くの客がおり、中にはチケット買い取りますと書かれたプラカードを持っている人もいた。
本当にチケットが手に入りにくいらしい。
「入り口はふたつあるようだな。チケットの種類によって内容が変わるのか」
そう言われてチケットを確認する。
おどろおどろしいイラストが記載されたチケット。
その右下には『大切な人と過ごすホラーハウス。二人の仲もより接近』と書かれていた。
二人の仲もより接近…!
きゃー!と内心真っ赤になるシェリー。
そんなシェリーの手を引き、シルフォードは指定の入り口でチケットを提示していた。