第8章 私のストーリー
「えっ、ミレーナお姉様がいらっしゃるの?」
ある日の午後、侍女の報告にシェリーはぱっと顔を上げた。
ミレーナは次女であり、二年前に嫁いだシェリーの姉だ。
久しぶりに実家に帰ってきたという報告を受け、シェリーは応接室に飛び込んでいた。
「もぅ、子供みたいにはしゃいじゃって」
シェリーを見たミレーナは嬉しそうに笑う。
その笑顔にシェリーは抱きついていた。
「ミレーナお姉様! お久しぶりです!」
「はいはい。ゆっくりお茶したいから落ち着いて」
ミレーナになだめられ、シェリーは隣にちょこんと座る。
嬉しくてたまらない。熱いお茶ですら一気飲みできそうだった。しないけど。
「それで、ミレーナ? 旦那のロバート様とは上手くやってるの?」
「えぇ。もちろんよ」
応接室には忙しい父と兄もいて、母が嬉しそうに話しかけていた。
貴族は結婚したらあまり気軽に実家に立ち寄ることはないらしいが、姉二人は定期的にこうして帰ってきてくれる。
久しぶりの会話に話が弾む中――
シェリーはシルフォードの姿を見てドキドキしたが、それを必死に隠してミレーナの話に耳を傾けていた。
「でも、最近はロバートも忙しそうでね。今日なんて本当はデートの予定だったのに仕事が入っちゃって。せっかくホラーハウスのチケットが取れたのに」
お茶を飲みながらミレーナはぷくーっと頬を膨らませる。
「ホラーハウス…ですか?」
聞きなれない言葉にシェリーは首を傾げる。
「えぇ、世界中を旅している団体の移動式ホラーハウスよ。王都の中央広場全てを使った大きなテント、見たことない? 大人気でチケットを取るのすら大変なんだけど…なんと、明日で隣国へ移動してしまうらしいのよ」
ミレーナの説明によると、ホラーハウスとは迷路のような道を進み、妖怪や魔物に扮した人や置物が人々を脅かすというものらしい。
怖いものが苦手なシェリーだったが、ミレーナが名案とばかりに提案した――
「そうだわ! せっかくだからシルフォードとシェリーで行ってきてちょうだい!」