第8章 私のストーリー
「お嬢様、おやすみなさいませ」
侍女が一礼して部屋を後にする。
パタンとドアが閉まる音がして、部屋に沈黙が訪れた。
あの女は寝たフリをしろと言ったが、全く意味がわからなかった。
そっと魔法書の目次を開いてみる。
そこにはシェリーが追記したストーリーのページ番号が表示されていた。
もし女の説明が本当であれば、シェリー自身のオリジナルストーリーを追加すれば他の人が書いたページ番号も追加されるのだろう。
自分で考えるストーリーには限界がある。
となれば、やはり他の人が書いたストーリーはとても気になるものだった。
「とりあえず……あの人の言ったとおり、寝たフリ?をしてみようかしら」
それで何かが起こるのだろう。
半信半疑だが、ちょっと期待をしていた。
シェリーはふかふかの布団を被るとゆっくり目を閉じる。
ちゃっかりベビードールを身につけ、これから起こることにワクワクしていた。
しかし――
聞こえてくるのは時計の針の音だけ。
何も起こる気配がない。
目を開けたら寝たフリではなくなってしまうのだろうと思い、正確な時間は確認できていないが、結構な時間が経っていた。
あの女の人は何がしたかったのだろうか……
いい加減寝てしまいそうでウトウトし始めたとき、カチャッと音がした。
一瞬で眠気が吹っ飛び、声を出しそうになるのを我慢する。
キィ、と音がして、パタンと音がする。
扉を開けて閉めた音で間違いないだろう。
シェリーは不自然にならないように目を閉じたまま、寝たフリを続けた。
入ってきたのは一人らしく、静かな足音がゆっくりとベッドに近寄ってくる。
オイルランタンを手にしていたのだろうか、明かりが枕元のテーブルに置かれた音がした。
そして聞こえてきた声にシェリーは驚く。
「愛しいシェリー。今日も可愛いね」
それはまさしく、兄シルフォードの声だった――