第8章 私のストーリー
その日、シェリーは魔法書をくれた女を訪ねることにした。
久しぶりに訪れた古書店。
ドキドキしながら扉を開けると、古い本の香りがした。
「あら、いらっしゃい」
黒いフードを被った女は、まるでシェリーを待っていたかのようにカウンターに座っていた。
しかも既に二人分のお茶が用意されている。
すすめられるまま席につくと、気持ちを落ち着けるため、早速お茶をいただく。
「あの魔法書、気に入ってくれたようね」
不意に女が呟き、危うくお茶を吹きそうになる。
慌てたシェリーとは対照的に女は冷静だった。
「そんなに慌てないでいいのよ。あの魔法書を手にした人はみんな夢中になっているもの」
「……あの魔法書は何冊もあるのですか?」
「えぇ、そうよ」
そう言って女は近くの棚から一冊の本を取り出す。シェリーにくれたものと全く同じ魔法書だった。
「あの…私、大した体験とかないので、妄想で話を書こうとしたんですけど、全然思いつかなくて。もし書けなかったら、あの魔法書は返却しなきゃいけない…ですか?」
シェリーは思っていた疑問を口にした。
女との約束は気に入らなかったら返す、気に入ったら最後のページに追加、だ。
不安げに女を見上げると、女は真っ赤な唇でクスっと笑った。
「貴女には物語を書く才能があると思うわ。だって、貴女の書いた各ストーリーの続き、とっても素敵で興奮したもの」
「……!?」
シェリーは驚いて目を見開く。
「わ、私が書いた続き……!?」
「えぇ、そうよ。ちゃんと私の手元にある魔法書に反映されてるわ。もちろん、他の人が書いた続きも反映されているの」
女はシェリーの反応が嬉しそうだ。
「わ、私の魔法書には他の人の書いたものは反映されないんですか?」
「あら、自分が書いた内容が反映されていることより、他の人が書いた内容が気になるの?」
「うっ……」
思わず言葉に詰まる。
だって、それは…気になるではないか。