第2章 パン屋の娘×幼馴染(貴族)
少し会話をして気づいた事がある。
ある程度ストーリーが決まっているとはいえ、シェリーにはそこそこの自由があった。
ただし、ストーリーを変えるほどの行動ができないのだ。
試しに「今日はいい天気ね」と当たり障りないことは言えたが、「もう帰ろかしら」と言おうとしたら声が出なくなったかのように口が動かなかった。
なので、ヒロインとはいえ、ストーリーの範囲内であれば自分らしく楽しむことができるらしい。
さすが魔法書!
こんなにリアルで他人のストーリーが体験できるなんて、すごい!
感動しているシェリーに気づいていないのか、ハウロという青年はニコニコしている。
どうしてこんなに嬉しそうなのかと思った時、不意に脳内に『設定』が流れてきた。
ハウロとは幼馴染
ハウロは男爵家の長男で、身分差があるものの、ずっと仲良し
三ヶ月前に告白されて付き合うことになった
今日は久しぶりのデート
……なるほど。
便利すぎるにも程があるわ。
「シェリー、行こう。今日は君が行きたがっていたお店を予約してあるんだ」
そう言ってシェリーの腰に手を添えるハウロ。
自然なエスコートに胸がキュンとしてしまう。
あれ…!?
確かにハウロはイケメンだけど、私ってそんなに惚れっぽかったっけ!?
ドキドキが止まらない。
ずっと見ていたくなるハウロの嬉しそうな表情。
ううん、違う。
私はずっと好きだった。
子供の頃から優しくて素敵なハウロが大好きなのだ。
そう、シェリーは心も”ヒロイン”になっていた―――