第2章 パン屋の娘×幼馴染(貴族)
水の音がして、シェリーはゆっくりと瞼を持ち上げる。
目の前に広がる光景は見慣れた噴水広場だった。
「あれ。私、自分の部屋であの本を…」
そこまで口にしてハッと気づく。
まさか、これが『パン屋の娘×幼馴染(貴族)』なの?
自分を見下ろせば、下町で人気だと言われているブラウスとピンク色のワンピースを着ていた。
普段のシェリーでは似合わないからとチョイスしない服装だった。
もう夕方だったはずなのに、空には太陽が輝いており、暖かい。それに頬に風を感じ、小説とはとても思えなかった。
「本当に夢か現実かわからなくなりそう……」
シェリーは噴水に近づき、揺れる水面を覗き込む。
そこには間違いなくシェリーが映っていた。
どうやらヒロインの容姿は影響が無いようだ。
「でも、これからどうしたらいいんだろう」
うーん、と首を傾げると、背後から声がかかる。
「シェリー、お待たせ」
振り向けば、そこには男の人が立っていた。
当たり前のように名前を呼ばれたが、初めて見る顔だ。
シェリーと同い年くらいの年齢で、シェリーより背が高い。ふわふわの茶色い髪は柔らかそうで、少し可愛らしい顔は頬が染まっている。
彼は何故かシェリーを見て嬉しそうにしていた。
どちら様ですか?
そう聞こうとした時、勝手に口が動く
「大丈夫だよ、ハウロ。私も今来たところだから」
「そっか」
ハウロとは目の前の男の人の名前らしい。
そして、この人が『幼馴染(貴族)』なのだ。
んでもって、私はパン屋の娘である。
徐々に状況を理解していた。