第8章 私のストーリー
「シェリー、ちょっと顔色が悪いんじゃない?」
そんな声にシェリーはハッと顔を上げる。
そこには心配そうにシェリーを見つめる両親と兄がいた。
「す、すみません。大丈夫です」
誤魔化すように微笑むと、シェリーは手にしたナイフとフォークを動かす。
今は朝食の時間だというのにボーっとしてしまっていた。
「そう? ならいいけど。辛いなら無理しないで言ってちょうだいね」
そんな母の優しさに胸が痛くなる。
毎晩えっちなことを考えていて寝不足ですなんて言えない…。
「シェリー、今日もし時間があるなら温室でお茶でもどうだい? 一緒にゆっくりしよう」
「お兄様…。えぇ、是非」
母によく似た兄、シルフォードが優しく微笑みかけてくれ、その提案にシェリーは頷いていた。
兄はこの家の長子であり、男爵家の跡取りだ。
姉二人もいたが、既に嫁いでしまっている。
仲の良い姉だったため、嫁いでしまった時は毎晩泣いて過ごし、その度にシルフォードが優しく抱きしめてくれたのを覚えている。
末子のシェリーには甘い家族だった。
とても優しくてベタベタに甘やかしてくれる両親。それを引き継いだかのような兄と姉。
姉は今では時々帰ってきて、シェリーに楽しい話を聞かせてくれる。
もう私は子供じゃない、と言いたいのに…つい家族の前だと子供になってしまうようだった。
その日の午後、温室に用意された紅茶を頂き、シェリーはぼんやりとしていた。
シルフォードは色々な話をしてくれたが、シェリーが眠そうになると隣に座って肩をかしてくれる。
「寝てもいいからね、シェリー」
そう言って本を取り出したシルフォード。
おやすみ、と頭を撫でられると、なんだか気持ちよくなってしまう。
温かい温室のせいもあるだろう。
たくさんの綺麗な花に囲まれ、シェリーは幸せを噛み締める。
と同時に夢の中へと落ちていった。