第5章 抱きしめる意味
画面には【五条先輩】の文字。
何で…五条先輩から…
だって今、隣の部屋にいないはずの五条先輩はどう考えても誰かと一緒なはずで…だって、あんな風に誰かと電話をしながら寮を出て行ったんだ。誰かに会いに行った事は間違いないのに…
何で…
だけれど鳴り止む様子のないその着信に、無視をしたらそれこそもう二度と五条先輩からの電話がかかって来なくなるんじゃないか…なんてそんな馬鹿な考えが頭に浮かんで、私はゆっくりと着信ボタンを押してそれを耳へと押し当てた。
「もしもし…」そんな小さな声を出した私の言葉は、次の瞬間聞こえて来た「あ、やっと出た〜」という何とも甘ったるい女性の声に掻き消される事となる。
え、だ…れ…?
聞こえて来た向こう側の声は、五条先輩ではなく女性の声だ。
もちろん硝子先輩のモノでもない。
知らない女の人の…甘くて女性らしくて、そして耳に纏わりつくようなそんな声。
『あなた、悟の何?』
「……へ?」
『悟がさっきあなたに連絡しようとしてるの見て気になってたのよね、携帯見たらあなたとのやり取りばかりだし。あ、ちなみに悟は今シャワー中だから、彼に私が電話した事は言わないでよ』
な、に…?
五条先輩が私に連絡しようとしてた…?私とのやり取りばかり…?この人が勝手に五条先輩の携帯を見た…?
いや、そんな事よりも…
五条先輩がシャワー中だという話を聞いた瞬間、私の心臓が酷く苦痛な音を上げる。