第5章 抱きしめる意味
ズキズキと痛いほどに胸を締め付けるソレは何と呼べば良いのだろうか。
嫉妬と呼ぶには汚くて、怒りと呼ぶには静かすぎる感情だ。ガタガタと震える指先に、馬鹿みたいに頭が真っ白になる。
今まで五条先輩が私以外の女性と電話をしている事など何度だって見てきたはずなのに、いざ直接的にその事実を突き付けられると、信じられないほどに胸がギリギリと痛んだ。
五条先輩が私じゃない誰かと身体を合わせていた事も分かってる。それなのに…目の前が真っ白になって、呼吸一つするのすらままならない。
それでも何とか震える指先に力を込めて、精一杯の力を振り絞って、向こう側から聞こえてくる女性の声を無視して私は通話停止のボタンを押した。
携帯がゴトリと床に落ちる。
しゃがみ込んだ体制のままうずくまるようにして膝の上に額を乗せれば、唇を噛みしめながら眉間に力を込めた。
泣きたくない。もうこんな事で泣きたくない。
五条先輩に私以外の人がいるなど、分かりきっていた事で、常に嫌というほど知っていたじゃないか。