第5章 抱きしめる意味
映画はあっという間にラストシーンに差し掛かり、そして気が付いた時にはエンディングが流れていた。
うわ、めちゃくちゃ見入っちゃってた。
ハッとして隣の夏油先輩を見つめれば先輩も真剣な眼差しでテレビを見つめていて、だけど私の視線に気が付いたのだろう。こちらを見下ろすとニッコリと目尻を下げた。
「なかなか面白かったね、真剣に見入ってしまったよ」
「はい、私も気がついたらエンディングが流れてました」
「ふふ、それは凄い集中力だ」
「いや本当、自分でもそう思います」
私の言葉にクスクスと笑う夏油先輩は、目の前に置いてあったりんごジュースを一口飲むとそれをテーブルにコトンと置いた。
「食堂行く?それとも夕食持ってこようか」
「私と夏油先輩がこんな時間に二人で食堂にいたら誰かに変に思われませんかね?何でこの組み合わせ?みたいな」
「うーん、それは平気だと思うよ。それにこんな時間に誰も食堂には滅多に来ないだろうしね」
別に夏油先輩と二人で一緒にいる所を見られたとして、それは何の問題もないはずだ。ただの先輩と後輩なんだから。
だけど何となく…何となくだけどこうして夏油先輩に私の弱い部分を見せていて、先輩の部屋で二人きりで過ごしていることは、他の誰かに知られたく無いと思う。
それは今二人で過ごす時間がとても穏やかな物で心地いいからか…
それとも五条先輩へこの事が知られるのが怖いからかは分からない。
なんならそのどちらもなのかもしれないけど。