第5章 抱きしめる意味
だけどキラキラとした恋愛映画を観れないのは、本当はそんな自分を何処かで可笑しいと分かっているからだ。
好きだから、どうしようもないほどに好きだから、好きとも言えずセフレとして五条先輩の側にいる。
告白すらもままならないそんな臆病者な私が、恋愛映画のように真っ直ぐて美しいモノなど観れるはずがなかった。
だってそれは、どこまでも惨めで虚しい行為だから。
非現実的なんてただの言い訳だ。惨めな自分を認めて虚しくなるのが嫌なだけだ。
何処までも矛盾していて、そして何処までもおかしなこの恋愛を…私は結局否定する事も止める事も出来ない。
「あ、先輩これ持って来たので一緒に食べましょう」
持っていたビニール袋を小さなテーブルの上に置けば、DVDをセットした夏油先輩が私の隣へと腰掛ける。
「わざわざありがとう、頂くよ」
だけどよくよく見れば、目の前の小さなテーブルの上には夏油先輩が用意してくれていたらしいミルクティーとブラックコーヒーが置いてある。
高専にある自販機のメーカーの物だ。きっとわざわざ先輩が用意してくれた物だろう。