第5章 抱きしめる意味
「そうですか?うーん、何て言うんだろう。私達呪術師の世界ってあんなキラキラした世界じゃないじゃないですか、だから何かそれがすごく非現実的すぎて共感出来ないというか。むしろアクション映画観てる方が私達にとったら現実的ですよね」
「確かにそれは言えてるかもしれないね、特殊能力を持った主人公の話とかの方がよっぽど私達からしたら現実的だ」
キラキラした世界に憧れないと言ったら嘘になる。
呪いも呪術も知らず、ただこの世界を曇りなき眼で見ることが出来ていたとしたら、きっと私もそんなキラキラと弾むような恋愛映画に夢中になっていたに違いない。
同級生の誰がカッコイイとか、憧れの先輩がいるだとかそんな話をしながら。
だけど現実はそれからはかけ離れていて、自分のしている恋愛すら黒く埋め尽くされるような世界の中にある。
まぁそれは、自分が引き起こし受け入れた事なのだが…
この狭い業界の中、言葉じゃ伝えられないほどに好きな人が出来て、そしてそんな大好きな人の隣にいるだけ幸せという物なのかもしれない。
例えそれがセフレでも。
いつ死ぬか分からないこの呪術師という仕事をしているのならば、好きな人に日々会えることすら幸せを噛み締めるべきなのだと思う。