第5章 抱きしめる意味
「泊まりは冗談だよ。この前灰原が貸してくれたDVDがあるんだ、まだ観れていなかったから一緒に観ないかい?」
泊まりに関しての答えを出せずにいる私へと、夏油先輩は楽しそうな笑みを作ると優しく微笑んだ。
な、んだ…冗談か…めちゃくちゃ考えちゃったじゃん。恥ずかしぃ…
本音はこのまま夏油先輩の部屋に泊まりたいと言う気持ちが大きい。だって一人になったらどうなるか分からない…どこまでも出口のない暗闇に閉じ込まれてしまいそうで。夏油先輩と一緒にならばきっとそんな思いはしなくて済むだろう。
先輩は私を抱えていた体制をそっと下ろしてくれて、私はゆっくりと口を開く。
「DVD観たいです」
「それじゃあお互いシャワーを浴びて楽な格好に着替えたら、私の部屋集合にしようか」
「はい、じゃあ後で夏油先輩の部屋に行きますね。あの、夏油先輩…ありがとうございます」
そんな私の言葉に夏油先輩は何がとも聞く事もなくニッコリと笑みを作ると「じゃあまた後でね」とひらひらと手を振り口角を持ち上げた。