第29章 本当は
胸の奥が裂けるような痛みと、頭痛がする。骨が軋むみたいに鈍痛がして、喉の奥がギュッと苦しい。
知っているようで知らない痛み。そんな痛みを抱えながら今日も真っ黒な学ランを身につける。
「はぁ、さすがに四時起きはキツイね」
「昨日は早く寝なかったんですか?灰原20時には寝るって意気込んでましたよね」
「いやー、寝ようとすればするほど寝れなくて結局寝たの22時だったんだよね」
「六時間寝れれば十分でしょう」
「エナちゃんは何時に寝た?」
昨日はしばらくあのままあの場所で立ち尽くしていたが、結局傑先輩の背中を追いかけることは出来なくてそのまま部屋へと戻った。それが最善だと自分に言い聞かせながら。まるで足に鉛がつまったみたいに重たくて動かなくて…それなのに手を伸ばしてしまいたくて。
「おーい、エナちゃん?」
雄ちゃんに肩をポンっと叩かれハッとしたようにそちらへと振り返った。今日は地方での任務だ。遠出なのにも関わらず日帰りで、朝早くから出発した。今日任務があって良かったのかもしれない、もしこのまま一人でいたらきっとずっとこの息苦しさから抜けられなかったはずだから。