第5章 抱きしめる意味
前回のお泊まりは成り行きと言えば成り行きだ。夏油先輩と話をしているうちに眠気の限界がやってきて、気がついた時にはすっかり夢の中だった。
夏油先輩の香りと話し声が凄く心地良くて、私を安心させそして安らかな気持ちにさせてくれる。何でだろう、何で夏油先輩と一緒にいるといつもこんなにも落ち着いた気持ちになれるのだろう。
今だってそうだ。きっとあのまま一人部屋に戻っていたら、それこそ心はボロボロで涙を流しながらろくに眠れない夜を過ごした事だろう。
だけど今は違う。夏油先輩のおかげで気持ちは少なからず落ち着いたし、輝く夜景を見て綺麗だと思えるほどには五条先輩の事を考えずに済んでいる。
まぁそれが例え今だけの事だとしても、あのまま一人で馬鹿みたいに泣き腫らすくらいならよっぼど気持ちは楽だ。
いつの間にか高専内の寮の前に到着すると、夏油先輩は私をヒョイっと持ち上げそのままヒラリと呪霊から飛び降りた。
あまりに私を軽々と持ち上げるものだこら、思わず驚いた表情で先輩の顔を見上げれば、やはりその切長な瞳は優しげに細められている。