第5章 抱きしめる意味
「…夏油先輩」
「うん?」
その声はとても優しく、そしてゆるやかに私の心へとゆっくりと届く。
「今日また…先輩の部屋に行っても良いですか…?」
何故こんな事を言ってしまったのか分からない。だけれど、夏油先輩の温もりがあまりにあたたかで、そして私を優しく包んでくれるものだから思わず欲が出てしまったのかもしれない。その優しさに浸っていたいと…
ゆっくりと後ろを振り向けば、そこには切長の瞳を見開き驚いたような顔をしている夏油先輩の姿。その表情を見てヤバイ、調子に乗ってしまったかもしれない。この前言ってくれた「またいつでもおいで」という言葉はお世辞だったのかもしれないと思い慌てて口を開こうとした時だった。
「もちろんだよ」
「…え?」
「私の部屋に来てくれるんだろう?」
私の部屋に来てくれるんだろう?と夏油先輩は言うけれど、お邪魔させてもらうのは私の方だ。そんな言い方ですら夏油先輩の優しさを感じて、この人らしさにフッと小さな笑みが溢れる。
驚いていた表情はいつの間にか優しい笑顔に変わっていて、目尻を下げ私をにっこりと見下ろした。