第5章 抱きしめる意味
夏油先輩はお姫様抱っこしていた私をゆっくりと下すと、今度は私の右手を握り呪霊の上へと座るよう促した。私を前に座らせて、夏油先輩はその後ろ側へと座る。
「手、離しても平気かい?」
その言葉に少しばかり考え込んでしまう。まさか落ちるとは思っていないし、最悪落ちても夏油先輩がすぐに助けてくれるだろう。だけどやっぱり呪霊に乗るのは慣れていないせいか少しだけ不安で…
「このまま…繋いでても良いですか…?」
とそんな小さな声で呟けば、夏油先輩はにっこりと優しい笑みを見せて「もちろんだよ」と穏やかな声を出した。
「少し、夜の散歩に行こうか」
私の後ろから手を繋いだまま座っている夏油先輩がそう呟くと、私達を乗せていた呪霊は空高くへと飛んでいく。
ふわりとした浮遊感に少し身体に力を入れれば、握ってくれていた夏油先輩の腕に力がこもる。まるで大丈夫だよと伝えてくれているみたいだ。
キラキラと煌めく夜景が綺麗で胸に沁みる。
きっと夜の散歩をしようと言ってくれたのは、乱れた私の心を落ち着かせてくれる為だろう。夏油先輩が窓から飛び降りた瞬間驚きで涙は引っ込んだものの、まだ心まで落ち着いたわけではない。
だけど涙が引っ込んだのは確実に夏油先輩のおかげで、そしてあんなみっともない姿を誰にも見られないで済んだのも夏油先輩のおかげだ。