第4章 感謝の気持ち
私じゃない…そして隣の夏油先輩でもない。となると残るは目の前の五条先輩のモノで。
五条先輩は開こうとしていた口をつぐむとチッと舌打ちを落としてからポケットから携帯を取り出した。そしてその画面を見てさらに深く眉間にシワを寄せると、私を一度チラリと見た後にまるで見せつけるかのようにして携帯を耳に当てる。
あぁ、嫌な予感がする。
「何だよ」
嫌だ、見たくない。
痛い、苦しい。
五条先輩の携帯からは、やはり思っていた通り女性の声が聞こえてきて…そしてその甘く甲高い声は私と夏油先輩の元まで届いた。
「あー、はいはい」
先ほどまでの冷たいトーンとは違い、少しばかりゆるやかになった五条先輩の声色に今度は私が眉間にシワを寄せる。
無理だ、苦しくておかしくなりそうだ。
「うるせぇな、今から行くっつーの。待ってろ」
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
行かないで…
お願い…
五条先輩はその後も、一言二言電話の向こうにいる相手と言葉を交わすと、携帯を切りそれをズボンのポケットへと押し込んだ。
「俺行くから、じゃーな」
行かないで…五条先輩…