第29章 本当は
「私は、エナの笑顔が大好きなんだ。君にはずっと笑顔でいて欲しい」
私の笑顔を大好きだと言ってくれる傑先輩、私だって先輩の笑顔が好きだ。温かくて優しくて安心させてくれるその笑顔が。
「今まで私の我儘に付き合ってくれてありがとう」
先ほどから先輩の言っている言葉がの意味が…わからない。そしてそれがやけに耳の遠くの方で聞こええるような気がした。だってこれじゃあまるで…
「…傑先輩、突然何言って…」
グッと引き寄せられた身体、傑先輩の大きな腕が私の背中に周りそして体を包み込むようにして強く抱きしめられる。
「こうして君を抱きしめられるのも今日で最後だ」
「……え」
「別れよう、私たち」
耳鳴りがする。まるで金属を擦り合わせたみたいにキーンと甲高い音が。
「どうして」とは言えなかった。喉から言葉が出てこなかったというのもあるし、耳元から聞こえてくるその声が震えているように聞こえて、抱きしめ合っているはずなのに…やけに互いを遠く感じて、まるで傑先輩が目の前にいないような気さえした。