第29章 本当は
先輩に触れている指先がドクドクと脈を打つ。ゆっくりと離れていくその身体に不安と喪失感が溢れ出した。
目頭にグッと力がこもる。それなのに言いたい言葉は情け無いほどに一つだって出てきやしない。
離れて行く身体を引き止めることも、待ってと声を上げることも出来ずに。
だって、私にはそんな資格があるのか…傑先輩の優しさに甘えその温もりに縋って過ごしていた。彼の気持ちを知っていたはずなのに。結局はこんな顔をさせて、そして…別れの言葉を言わせてしまった。
私に引き止める資格なんて無い。
そんなことをするのは間違っている。
もう傑先輩を解放してあげないと。
それなのに…
「これからも、先輩後輩として仲良くしてくれると嬉しいよ」
そう言い苦し気に笑い背を向けていく傑先輩のその手を、私は…掴んでしまいたくて仕方がなかった。