第29章 本当は
「天与呪縛のサンプルは少ないし今の私の本命はニだね。知ってる?術師から呪霊は生まれないんだよ」
「…っ」
「勿論、術師本人が死後呪いに転ずるのを除いてね。術師は呪力の漏出が非術師に比べ極端に少ない。術式行使による呪力の消費量やキャパの差もあるけど一番は流れだね。術師の呪力は本人の中をよく廻る。大雑把に言ってしまうと全人類が術師になれば呪いは生まれない」
「…ッ」
…っ、全人類が術師になれば呪いは生まれない…?確かにそうだ。術師からは呪いが生まれないのなら、非術師が全員術師になれば呪いは発生しない。けれどそんなことは不可能だろう。
…非術師のいない世界を作らない限り。
「…なら、非術師を全員」
傑先輩のいつよりも遥かに低い声が聞こえてきた時だった。傑先輩の物だろうか、携帯がブーブーとメッセージを知らせる音が鳴り響き言葉が止まる。
ドクンっと心臓がうるさいほどに音を上げた。
もしも今、携帯が鳴らなかったとしたら…傑先輩は何と言おうとしていたのだろう。
一つの言葉が頭をよぎる。けれどそれは、決して口にして良い言葉などではない。
だからこそ、傑先輩のその言葉の続きが…