第29章 本当は
「大丈夫ですよ、悪い人じゃないです。人を見る目には自信があります!」
「…私の隣に座っておいてか?」
「…?はいっ!」
「あっはっは、君今のは皮肉だよ」
女性の大きな笑い声が響く。そしてしばらくすると、雄ちゃんの携帯が鳴り「あ、そういえば先生に呼ばれてるんだった!」と思い出したかのように大声を上げ「失礼しまーす!」といつもの明るい笑顔を向けると、颯爽と廊下を走って行ってしまった。
「後輩?素直で可愛いじゃないか」
「術師としては、もっと人を疑うべきかと」
呆れというよりは、心配そうに声を滲ませる傑先輩。これもまた、後輩思いの傑先輩らしい。
「で、夏油君は答えてくれないのかな?」
「まずはあなたが答えて下さいよ。どちら様?」
「特級術師、九十九由基。って言えば分かるかな?」
特級術師…九十九由基。私でも、聞いたことのある名だ。何せ特級術師は普通の術師が慣れるようなモノじゃない。冗談でしか聞かないレベルなのだから。