第29章 本当は
高く響き渡るようなヒールの音。
「君が夏油君?どんな女が好みかな?」
二人の元へと行こうと足を一歩出した私の耳に届いたのは、そんな女性の声だった。物陰から一瞬だけ見えた金髪の長い髪。
あの女性は…誰だろう。高専内では見たことがない。
それは二人も一緒だったのだろう、雄ちゃんは一瞬キョトンとした顔を見せていたし、傑先輩は少しばかり眉間にシワを寄せたように思う。
けれど物陰に隠れている私には、一体この人が誰かなんて確かめる術はなくて、踏み出そうとしていた足を再び元に戻してしまった。
「どちら様ですか」
「自分はたくさん食べる子が好きです!!」
雄ちゃんの元気な声が聞こえて来てすぐに「…灰原」と傑先輩の呆れたような声が耳に届いた。この女性を警戒している傑先輩と、それとは真逆にすんなりと質問に答えた雄ちゃんのチグハグさに思わずこっちまで苦笑いだ。
うん、雄ちゃんらしい。非常に雄ちゃんらしいんだけど…そこはもう少し慎重になった方が良いのでは…と、同期として心配になってしまうのも事実だ。