第29章 本当は
聞き慣れた声がする、その声に足を止めた。多分それはほとんど無意識に近くて、思わず隠れるようにして自動販売機の影に背を預ける。
「明日の任務、結構遠出なんですよ!」
「そうか、お土産頼むよ」
雄ちゃんと、傑先輩の声。
「了解です!!甘いのとしょっぱいのどっちが良いですか?」
「悟も食べるかもしれないから甘いのかな」
「任せて下さい」
ただいつも通り何気ない話をしているだけのはずなのに、私の足はピクリとも動かなくて、今すぐにでも二人のところへ行けば良いはずなのに、身体の自由がきかない。
「………灰原、呪術師やっていけそうか?辛くないか?」
「そうですねー、自分はあまり物事を深く考えないタチなので、自分に出来ることを精一杯やるのは気持ちが良いです!!」
「そうか…そうだな」
それは多分、傑先輩の声があまりに儚気で、今にも消え入りそうに聞こえたからなのかもしれない。
ダメだ、このままここにいたら盗み聞きをしているのと同じだ。そう思って一歩足を踏み出そうとした時だった。