第28章 染まりゆく
どうしたら良いのかとおどおどする私に、五条先輩は再び背中をそっと優しく押すと、まるでそれを後押しする様に窓からは強すぎるくらいの風が吹き抜けた。
何と言ったら良いのかも、どんな表情をしたら良いのかも、今の私には到底分からない。
ただ分かることと言えば、今起きていることは現実で…先ほど五条先輩が口にした言葉も現実どということだけ。
私が何か言うよりも先に、五条先輩は「早く行けよ」もう一度そう言って私を見下ろすと、そのまま教室の中へと入って行ってしまった。
しばらくはそのまま立ち尽くしていたと思う。それでも夜蛾先生の足音が聞こえるころには、せっかく五条先輩が気を遣って私を逃してくれたのに、このままこの場所にいるわけにはいかないと足を動かした。
心臓の音が聞こえる。
うるさいくらいに。
そして引きちぎられそうなほどにギリギリと
私の胸の中を掻き乱した。