第28章 染まりゆく
傑先輩が心配だったという言葉は言わないでおこう。何となく…その方が良いような気がした。
誰よりも周りをよく見て気を使っている先輩は、きっと心配などと言えばそれこそ心配をかけまいと平気なフリをしてしまいそうだから。
だってほら、今だってそうだ。
「嬉しいよ、入って」
にこりと目尻を下げ微笑むその表情は、まるで疲れなんて感じさせないほどに完璧な笑顔で、きっと先ほどドアを開けた瞬間を見ていなければ傑先輩のあの表情を見落としていたとすら思う。
甘えて欲しい。そう思うはずなのに、それを伝えるには酷く難しくて、そして傑先輩はいつだって自分を疎かにしてしまうのかもしれない。
傑先輩が大きく開いた扉の中へと入れば、その中は薄暗く電気は付いておらずやはり寝ていたのかもしれないと申し訳なくなった。
「先輩、もしかして寝てた?」
「いいや、起きていたよ。寝付けないと思っていた所だったんだ」
その声がいつもよりも少し小さく聞こえるのは、夜だからだろうか。
「じゃあ一緒に寝ても良い?」
「もちろんだよ」