第28章 染まりゆく
コンコンと部屋のドアをノックする。けれど中からは何の反応もなくて…まだ帰って来ていないのかもしれない。もしくはもう寝てしまったのか。
隣の部屋には五条先輩だっているはずだし、こんな夜中に何度もノックをするわけにもいかず諦めてその場を立ち去ろうとしたところで、ギィーと古びた音を上げゆっくりとドアが開いた。
下ろされた髪を見るに、もう寝ようとしていたのかもしれない。
けれどそれよりも、目元にあるクマはさらに深くなっており、そして酷く疲れた表情がそこにはあった。
「…エナ?」
その疲れた顔付きは、私を視界に入れた瞬間少しばかり驚いた表情をしたものの直ぐにその目元を心配気に細める。
「こんな時間にどうしたの、何かあったのかい?」
まず第一声は、やはり私を心配する声だった。いつもそうだ、いつだってそうだ。だから私はこの人が心配になる。自分のことよりもまず相手を心配してくれるこの人に。
「違うよ、傑先輩に会いたくて来た」