第1章 無茶な恋
正直、その優しさが胸に染みたのは事実だ。だけど私の世界の中心は五条先輩で、五条先輩が全てだった。
五条先輩が好きで、大好きで、告白をするよりもセフレである事を選んだ自分を惨めに思いながらも、どうしようもないほどに五条先輩が愛しくて。
例え廊下で会った時に口悪く「おい、ザコはこんなとこで話してる暇あったら訓練しとけよ」と言われようが、同じ任務中に「弱すぎ、死にたいわけ?」と鬱陶しそうに見られようが、行為の後に素気なくされようが。
時々見せてくれる優しい笑顔に、何の気まぐれか「出かけるか」って言って貴重な休みの日に映画館へ連れて行ってくれるところとか、「…エナ…っ…」とたまらなそうな表情で私だけを見下ろしてくれるあの瞬間で全てが許せてしまうほどに先輩が好きだった。
先輩が他のセフレと目の前で電話をしていたとしても。抱きしめた先の白い肌に真っ赤な華が咲くようにして痕が付いていたとしても。それでも私は我慢できた。ずっと仕方のない事だと、好きになったのは私で、先輩は私を好きじゃないのだからと。それでも相手にしてもらっているだけマシじゃないかと。
だから、正直…いつだって私の心はギリギリのところにあって。
ギリギリ自分の心が壊れるか壊れないかの瀬戸際にいつもあって。
「柊木…顔色が悪いよ。大丈夫かい?」
と優しく、だけどどこか苦しそうに声をかけてきた夏油先輩を見た時。私の心はとうに壊れていたんだという事を知った。