第27章 初めての
彼女が出て行った後の教室。
「あれれれー?もしかして夏油とエナ喧嘩ー?」
「ぶははははっ、一人だけシカトされてやんの!」
心底楽しいとでも言いたげにゲラゲラと笑う硝子と五条に、夏油はイラっとした表情を向ける。
エナは教室に入ってきてから一度も恋人である夏油に話しかけなかったのだ。
その理由は明白であったが、夏油へと何のリアクションも見せない彼女を見て、教室を出ていく直前もちろん夏油は「エナ…」と話しかけようとしたのだが、エナはこちらにチラリと一瞬視線を寄越すとそのまま教室を出て行ってしまった。
「傑君が女怒らせるなんて珍しいじゃーん」
「女の扱い上手いのだけが取り柄なのにね」
「酷い言われようだな」
それにしても、めちゃくちゃ楽しいモノでも見つけたかのような顔が腹立つ。
コイツらは人の心と言うものがないのか。いや、この二人にそんなことを期待するなど無駄か。人の失敗を見れば楽しそうに手を叩いてケラケラと笑ってくる奴らだ。
まぁそんな裏表のない所が、夏油としても彼らの気に入っている部分ではあるわけなのだが、今だけはゲラゲラと可笑そうに笑われため息を吐きたくなった。