第26章 極秘任務
しばらくしてそっと身体を離し傑先輩を見下ろす。
その瞳はゆらゆらと私を写し、そしてそれは何処までも不安な色を滲ませた。
「エナ…泣かないで」
傑先輩の優しい声が私に届く。けれどそんな言葉を言いつつも、私よりもよっぽど泣きそうな顔をしている傑先輩の代わりに、私が泣こうなどとそんな馬鹿みたいな事を考えた。
この人は器用そうに見えて誰よりも不器用だ。いや、違うか。普段は誰よりも器用で何にも完璧でそして素晴らしいほど頼りになる人だ。
けれど、自分のこととなると酷く不器用なんだ。
不器用で真面目で、きっと誰よりも優しい。
だから苦しい。だから人一倍苦しさを抱えてしまう。
私がズッと鼻をすすれば、大きな手が私の頬へと優しく触れそのままそっと親指で涙を拭ってくれる。
「私が泣いて…ごめんね…」
「私の為に泣いてくれているんだろう」
その表情はとても穏やかで、少しは傑先輩の不安を消してあげられていれば良いのに…と、そう願わずにはいられなかった。
ゆっくりと傑先輩の手が私の後頭部へと回る。
そしてそれは互いをまるで引き寄せるようにして…少しばかり冷えた唇が、そっと優しく重なった。