第26章 極秘任務
「理子ちゃんが…私の目の前で死んだんだ」
「…うん」
「手の届く範囲だった。帰ろうって…彼女もうんて、そう答えたんだ。私が手を差し伸べて、理子ちゃんは笑ってた」
「…うん」
「けれどその手を掴むことは出来なくて…」
「…うん」
どれほど苦しかっただろうか。目の前で倒れゆく理子ちゃんを目にして。
手の届く範囲だった。それなのに助けられなかったと…きっと悔やんでも悔やみきれないほどの感情で胸の中はぐちゃぐちゃなはずだ。
それなのに、今の今まで取り乱すことなく冷静な姿を貫き通してきた傑先輩は、やはり我慢強く己の感情を必死で押し殺してきたのだと思う。
私の背中へと傑先輩の腕が回る。ぎゅっと私を強く抱きしめ、そしてワイシャツを強く握りしめた。
私が今言えることはきっと何も無い。どんな励ましの言葉を言おうが、それは慰めにすらならないはずだから。きっと傑先輩だってそんなこと望んでいない。
それなら、私に出来ることは何だろう。
傑先輩のそばにいて、強く抱きしめること。あなたは一人じゃ無いんだよと、大丈夫、私がそばにいるからって、そう強く強く抱きしめること。
自分の出来ることなどたかが知れている。それでも私はこの人を強く抱きしめたいと思う。
傑先輩の震えるその肩を包み込み、そして少しでもあなたの力になれたらと。
そう思わずにはいられないんだ。