第26章 極秘任務
その顔には心底心配と書いてある。垂れ下がった眉も、困ったようなその表情も、きっと私をとても心配してくれていたのだろう。
「無茶をしては駄目じゃないか」
けれど、不安なのも、心配なのも、無茶をしたのも…
「心配した、大丈夫かい」
それは全部傑先輩の方じゃないか。
大丈夫?って声をかけるのも、心配したよって言うのも、それは全部全部私の台詞だ。
「…大丈夫じゃないのは傑先輩の方でしょ」
理子ちゃんが死んだ。理子ちゃんが傑先輩の目の前で殺された。
困ったように小さく瞳を細める傑先輩を見て、その身体を強く抱きしめたくなった。だってその身体は、いつものように堂々としたものでは無く私には今にも崩れ落ちてしまいそうに見えたからだ。
けれど、きっと傑先輩はそれを必死で隠そうとしている。そういう人だ。この人はそういう人なんだ。
誰よりも何よりも他人を優先して、そして今だって私を優先し気を使ってくれている。自分の苦しい気持ちなど後回しで…
「無理に笑おうとしないで…私なんかよりも、ずっと苦しいのは傑先輩の方でしょ…」
今にも泣き出しそうにそう言葉を落とせば、傑先輩は目を見開いた後、グッと目元に力を込めるようにしてこちらを見つめた。ゆらゆらと揺れる黄金色の瞳は、今は酷く不安気で海の底へと沈んで行ってしまいそうにすら見える。
「…すぐる…先輩、傑先輩っ」
私は勢い良くその場から立ち上がると、ベッドサイドへと座っていた傑先輩を頭からギュッと覆いこむようにして抱きしめた。