第3章 気付かないふり
「授業が始まる前、仲良さそうに話してたろ」
その言葉にハッとして思わず黙り込んだ。いや、だって…五条先輩の事で泣き腫らしていた目を心配してくれてただなんて言えるわけがない。
「別に…大した話じゃない」
何て誤魔化したら良いかも分からず、適当な事をペラペラと言ってしまえば良かったのに、無駄に言葉をつまらせたりなんてしたからだろうか。
見上げた先の五条先輩は苛立ったように眉間に皺を寄せ、碧く綺麗な瞳を細める。
トンっと身体を押され背中に壁がぶつかる。両腕はいとも簡単に五条先輩の右腕に頭上で拘束され、そして反対の手は私の顎をスルリと撫でながら持ち上げた。
「……っン」
少しだけ冷たい唇が私の口を塞ぎ、そしてそれとは対照的に熱く熱のもった舌先が私の赤い唇を割って侵入してくる。
くちゅりくちゅりと、まるで生き物のように器用に舌先を動かす五条先輩のその行為はどこか怒りを含んでいていつもよりも強く舌を絡め吸い取った。