第3章 気付かないふり
授業を終えて更衣室へと向かう途中、突然背後から腕を引かれ身体がよろめく。
強い力では無いがズルズルと引かれ吸い込まれるようにして空き教室へと入り、目の前でバタンと扉が閉まった。
「…どうしたんですか?」
「……………」
無言のまま私を見下ろしてくるのは、やはり先ほど同様どこか機嫌の悪そうな五条先輩の姿。
それに軽くため息を吐きたくなるのは、やはり彼にまとわりつく甘ったるい香水のせいだろう。
体術の授業であれほど暴れていたのに、未だに香ってくるってどんだけキツイ香水なんですか?なんてあくどを付きたくなる。こんなこと言いたくなるなんて私って性格悪いのかな。
「五条先輩?」
一向に口を開こうとしない五条先輩に少しばかり首を傾げれば、先輩はチッと軽い舌打ちを落とし握っていた私の腕を離した。
「さっき傑と何話してたの」
「さっき?」
さっきとはいつの事だろうか…授業の終わりにお疲れ様と声をかけてくれた時のことか、それともその後にジュースを奢ってくれた時のことか。
はて?と首を傾げ考え込むようにして腕を組めば、五条先輩は低い声で唸る。