第3章 気付かないふり
この汚くも捨てられない想いを、一人で抱えるには限界だった。
それはとても自分勝手で、そしてどうしようもない悩みだと分かってはいるが。
それでも私にとっては大切な恋で…そして大切な想いなのだ。
それを夏油先輩は否定するわけでも無く、捨てろと言うわけでもなく、だけど何処かどうしようもないなぁと心配するようなその表情に、私の気持ちはたまらなく救われた。
夏油先輩の事を大人で優しい人だと思う。
だけどそれはきっと、先輩の纏う雰囲気とか表情とかじゃなくて。
人を思いやれるその気持ちが、とても大人で優しいのだとそう思った。
穏やかに優しく私を見下ろす先輩を見上げながら「…夏油先輩」そう言いかけた所で夜蛾先生の大きな声がグラウンドに響き渡る。
「悟!10分前行動をしろ!!」
その名前に身体が反応してしまうのはもう仕方ない無い事だ。無意識でもあるし、もしかしたら病気のようなものなのかもしれない。五条先輩を常に意識してしまっているという。
恋は人を馬鹿にするなどと言うけれど、本当にその通りだ。