第3章 気付かないふり
「おっと、大丈夫かい?」
温かなぬくもりが私を抱き止める。骨張った指と、がっしりとした腕が私の身体を支えた。
その慣れない夏油先輩の温もりに思わずかすかに頬を染め、そして今度こそ慌てて身体を離した。
「すみません!本当昨日から私…夏油先輩に迷惑しかかけてない…」
「ふふっ、平気だよ。気にしすぎ」
その夏油先輩の言葉がありがたくも優しくて、やっぱり夏油先輩はとんでもなく後輩思いな優しい人なのだとそう思った。
たった数時間一緒にいただけだけれど、夏油先輩の事を少し知れたような気がする。
今まで夏油先輩とここまで関わるだなんて思っていなかったし、それは先輩後輩としての適度なほどよい関係がずっと続くものだとばかり思っていた。
だけど現実は、夏油先輩に五条先輩とのことを知られて、それだけならまだしもボロボロに泣き腫らし慰めてもらってしまった。
そりゃあ少しばかりまだ気まずいけれど…だけどあの時私を見つけてくれたのが夏油先輩で良かったと思う。
五条先輩とのことがバレたのが夏油先輩で心底良かったと思う。