第3章 気付かないふり
軽く目を見開きながらパチパチとした後「柊木?」というまたもや夏油先輩の良い声が耳元に触れて、ハッと意識が現実に戻ってきた。
「あ、大丈夫です!夏油先輩が冷やしてくれたおかげです」
多分周りに聞こえないようにわざわざ近くでコソっと話してくれたんだと思う。やっぱりこういった所が夏油先輩のモテる理由なのだろう。
思わず心臓がドキドキとうるさく鳴って、慌てたように夏油先輩の方へと振り向きペコリと頭を下げた。
だけど振り返り頭を下げたからだろうか、思ったよりも近かった先輩との距離はさらに近づいていて大きく目を見開く。そしてその時にはほとんど身体はゼロ距離で、慌てて夏油先輩から離れようとした瞬間足元がふらついた。
寝不足だったからかもしれない。それともいきなり勢い良く頭を上げたからかもしれない。
あぁ、やばい、倒れるかも。
ふらつく身体を自身で見つめながら呑気にそんな事を頭の片隅で考えていたと思う。だけど多分一番大事な意識は近くにいる夏油先輩からやっぱり良い香りがするな。イケメンは香りまで爽やかなのか。なんてそんなしょうもない事を思っていた。