第1章 無茶な恋
「柊木?」
そんな声が聞こえてきたのは、このベンチに座ってどれくらい時間が経った頃だろうか。
指先がキンキンに冷え、頬の温かさも無くなっているところを見ると多分相当な時間が経っていたんだと思う。
うつむいていた顔を持ち上げ声のした方へと視線を向ければ、そこには見慣れた人物が私を心配そうに見下ろしていた。
「…夏油先輩」
私の名前を呼んだのは、一つ上の夏油傑先輩だった。先輩のその姿はこんな時間だというのにまだ制服のままで、少しだけ赤い鼻先を見るにきっと今まで任務についていたのかもしれない。
「こんな時間にどうしたんだい?任務の帰り?」
「あ、えっと…」
そういえば自分もまだ制服だったんだ。こんな所でうつむていたから、任務でヘマをして落ち込んでいるとでも思われたのかもしれない。
実際のところは、あなたの親友とベッドで淫らな行為をして、その後邪魔そうにされたのでここで落ち込んでいました…とは絶対に口が裂けても言えない。
言葉を詰まらず私に、夏油先輩は無理に何かを聞くわけでもなくしばらくして私に背を向けた。あ、どうしよう。無視をしたみたいに思ったかもしれない。
そう思った私とは裏腹に、夏油先輩は自動販売機に小銭を入れるとピッとボタンを押してガコンガコンと音を鳴らした入り口へと手を入れ飲み物を取り出した。