第2章 夏油先輩の部屋
「外に誰か居ないか一応確認するよ」
私の横からスッとドアを開けた夏油先輩は、外へと顔を出す。
確かにそうだ。こんな所誰かに見られたらヤバすぎる。そう思ってから、あ…そういえばいつも私はこの部屋の隣から出て来ていたんだなんて思い出す。
廊下の外をキョロキョロと見渡している夏油先輩の背中を見て思う。そう言えば五条先輩にこんな風にして見送ってもらった事なんて一度もなかった…
ははっ、こんな何気ない事すらあの人が浮かんでくるなんて…本当に自分はどうしようもないほどに重傷だ。
「大丈夫そうだ」
こちらへと振り返り、大きくドアを開けた先輩に続いて靴を履いた。
「夏油先輩、本当にありがとうございました。いっぱい迷惑かけちゃってごめんなさい…」
「気にしないで、こちらこそ朝まで話に付き合ってくれてありがとう」
夏油先輩って本当に優しいな。あんなにも虚しかったはずなのに…その穴が少しばかり埋められていくような感覚がする。
「それじゃあまた、体術の授業で!」
腫れた目を細め笑顔を向けると、もう一度頭を下げてから部屋を出た。
だけどそれは次の瞬間、何かによって静止させられる。それが夏油先輩の腕だということにはすぐに気が付いて、再び後ろを振り返り首を傾げれば、先輩は真剣な眼差しで真っ直ぐと私を見つめていたのだ。