第2章 夏油先輩の部屋
「柊木に向けてる優しさは本物だよ」
私が眉間に皺を寄せていたからだろうか、夏油先輩が真っ直ぐに視線を私と合わせる。
「君には本当に心から優しくしたいと思っているからね」
「後輩だから?」
私が首を傾げながらそう聞き返せば「そうだね…大事な後輩だからだよ」と夏油先輩は頷きニコリと笑顔を見せた。
「ならやっぱり夏油先輩の彼女さんになる人は幸せですね」
「何でだい?」
「だって、後輩の私にですらこんなにも優しいんだから。きっと彼女さんには想像も出来ないほど優しくするでしょう?」
後輩にこんなにも優しい夏油先輩の彼女は、やっぱりどう考えても幸せだろう。間違っても浮気や裏切り行為なんて物とは無縁なんだと思う。
優しくて、大人で、落ち着いていて、温厚で、こんな人が彼氏なら先輩の彼女になる人は心底幸せにしてもらえるに違いない。羨ましいと思う。こんなにも汚い恋をしている自分が惨めになるほど。ただ勝手に妄想している夏油先輩の彼女は、とても幸せそうに笑っている気がする。
うんうんと頷きながら瞳を閉じていると、朝食を食べ終えて満腹だったからか、いきなり襲ってくる睡魔に慌てて瞳を薄く開いた。
すると、うっすらと目を開いた先の先輩が眉を垂れ下げて困った顔をしているのが視界に映る。