第2章 夏油先輩の部屋
そんな事を考えていたせいか、私は軽く口を開くと「夏油先輩の彼女になる人は幸せだろうなぁ」と無意識に呟いていた。
「…え?」
「あ、声に出てましたか?」
「うん、そうだね…出ていた、かな」
「すみません、でも本当にそう思って。夏油先輩って大人っぽくていつも優しいからきっと彼女になる人は幸せだろうなって」
そう言ってニコリと笑った私に、先輩は少しばかり言葉を詰まらすと「私だって、誰にでも優しいわけではないよ」と小さく呟いた。
「…そうなんですか?」
「そうだよ、そう見せているだけさ。外面良く一定の距離を保ってるから優しそうに見えてるんだよ」
その言葉はいつもの先輩の声のトーンにしてはどこか低く、そして冷静に聞こえた。一定の距離を保っているから優しそうに見えている。その言葉は分からないようでとても分かりやすい言葉だ。人に本心を見られたくない人間は笑顔でいるのが一番だと昔誰かに言われた事がある。
多分夏油先輩が言っているのはこれと同じことだ。じゃあつまり今私にしてくれているのも偽りの優しさだというのだろうか。一定の距離を保つ為の?そうは思えない。だってもしそんな表面上の薄っぺらい優しさだったら、寝ずにこんな何時間も付き合ってくれる?落ち込む後輩に何度も何度も声をかけて飲み物を手渡してくれる?
そこまで考えて、むっと眉間に皺を寄せていた私の横から今度は先輩の優しい声が落ちてきた。