第2章 夏油先輩の部屋
その夏油先輩の言葉に、うっすらとしか開けていなかった瞳を少しばかり大きく見開く。
「実は夕食の後すぐに一度寝むってしまってね、もう今日は眠むれそうになかったんだ。だから少し話し相手になってくれないか?」
それは夏油先輩のついた優しい嘘だということにはすぐに気がついた。
だってその証拠に、夏油先輩の端正で綺麗な顔にはクマが出来ている。その切長な瞳の下に、うっすらとしたクマが。
だけど、夏油先輩があまりにも優し気に目尻を下げるものだから…私を覗き込むその表情があまりに温かかったから…
「夏油…せんぱい…」
私が小さく呟いたのを合図に、夏油先輩は私の前でしゃがんでいた体制を直すと、そっと手を差し出した。
その逞しく大きな手をゆっくりと握りしめる。
「行こうか」
こくりと頷く私にやっぱり先輩は優しく微笑むと、その手を引いて歩き出した。