第1章 無茶な恋
「……え」
「悟の部屋から出てくるのを、何度か見かけた事があったから」
迂闊だった。まさか見られていたなんて微塵も思っていなかった。
口上手く「それはきっと夏油先輩の見間違いですよ〜」なんて言えるような状況でも雰囲気でもない。そして、私が夏油先輩相手に嘘をつき欺けるはずも無かった。
だって目の前の夏油先輩を見たら、そんな事したとして…それは全くの無意味な事だと悟ったからだ。
夏油先輩は全てを知っている。多分五条先輩が言ったわけではない。五条先輩の親友であり頭の回転も早く良く人を見ているこの人のことだ…きっと私が五条先輩の部屋から出てくるのを見なかったとしても…多分いずれはバレていたに違いない。そう思った。
黙りと口を開くことの出来ない私に、夏油先輩は私の目の前へとしゃがみ込む。
「付き合っている…わけではないのかな?」
夏油先輩ならもちろん知っている。いや、高専の人物なら誰もが知っている…五条先輩が女性に対し誠実ではないということ。良く硝子先輩は五条先輩のことをクズでカスだと言っていたくらいだ。
だから夏油先輩にそんな質問をされても少しも驚く事は無かった。むしろ「セフレなんだよね?」なんて聞かれるよりもよっぽどありがたくて、その質問には夏油先輩の優しさすら感じる