第1章 無茶な恋
それが夏油先輩の手だと気が付き、腫れぼったい顔のまま先輩を見上げる。
「そんなに擦ったら、真っ赤になってしまうよ」
困ったような、だけど何処が泣きそうにも聞こえるその声に…何故夏油先輩までそんな顔をしているのだろう…とまだボヤける顔のまま先輩を見つめた。
何も答えることの出来ない私に、今日はホットのミルクティーではなく、冷たいリンゴジュースの缶が手渡される。
「これで冷やしな」
「…ありがとう…ございます」
情けない顔のまま縛り出した声は、思ったよりもカスれていて長時間泣いていた事が嫌でも分かった。
ここ最近こうして会った時はいつも私の隣へと腰をかけ、缶コーヒーを一本飲み終わるころ何気ない声をかけてくる夏油先輩。
だけど今日はそうではなくて…
私の座るベンチの前に立たずんだまま、私を酷く悲しそうに見下ろしている。
「…悟と何かあったのかい」
その言葉を聞いた瞬間、喉の奥がヒュッと変な音を立て、今度は私が目を大きく見開きこちらを見下ろしている夏油先輩を驚いたように見上げた。